寄港国検査(PSC)を支援し、航行の安全と海の環境を守ります。

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PSCって何ですか?

船の安全規制

石油や穀物、電化製品、自動車などの貿易は、船による海上輸送が担っています。円滑な物流や海の環境を守るには、このような船に対する安全対策を徹底する必要があります。船の安全規制は、原則として船が船籍(人の戸籍のようなもの)を置く国が責任を持っています。しかし、この責任を果たさない船籍国が現れました。 国際的な海運では早くから自由の原則が確立され、船の国籍を問わず自由に国際航路に参入できます。このため、船会社は所有船の船籍をリベリア、パナマ、カンボジア、モンゴルなどの国(便宜置籍国)に置き、コスト削減を図るようになりました。しかし、このような便宜置籍国は安全規制に十分な能力を持たず、便宜置籍国の船が世界各地で事故を起こし、沈没による航路障害や油流出による海洋汚染を引き起こしました。

寄港国検査(PSC)の始まり

1978年に便宜置籍国に船籍を置く巨大タンカーが操舵装置の故障からフランス沖で座礁し、大量の原油を流失し、沿岸国に多大の被害をもたらしました。事故の影響を被った欧州各国は、自国の港に寄港する外国船の安全性を確認する必要があるとの認識を持つようになりました。具体的には、船の安全基準等を定めている国際条約を満足しているかについて、条約上で許容されているポート・ステート・コントロール(Port State Control: PSC)と呼ぶ立入検査で確認することです。しかし、PSCの実施には次のような課題がありました。

  1. 近隣の港湾間で、不適切な競争を招く恐れがある。例えば、A港が厳しく、隣接するB港が安易なPSCを行えば、船はB港に流れる。
  2. 船側にとって寄港国毎に検査されれば、円滑な運航に支障が出る。

これらを解決するには、一定地域において統一された手法でPSCを行うとともに、ある港のPSCで優良船と判定されれば一定の期間は近隣港ではPSCを行わない等、一定地域での国際的協力が必要になります。

このため、欧州各国は、1982年にパリで「PSCに関する地域協力に関する覚書(MEMORANDUM OF UNDERSTANDING)」(パリMOU)を採択しました。パリMOUにより欧州ではPSCが始まり、国際基準を満足しない船(サブスタンダード船)が減少しました。

PSCの進展

パリMOUの成果を踏まえ、国連の専門機関である国際海事機関(IMO)は「PSCに関する地域協力の促進に関する総会決議」を1991年に採択しました。これを踏まえ、世界の各地域で欧州と同様なMOUが作られました。現在、世界には下記の9つのPSC地域組織があります。

  1. Paris MOU (1982)(欧州地域)
  2. Acuerdo de Vina del Mar (1992) (南米地域)
  3. Tokyo MOU (1993)(アジア太平洋地域)
  4. Caribbean MOU (1996)(カリブ海地域)
  5. Mediterranean MOU (1997)(地中海地域)
  6. Indian Ocean MOU (1998)(インド洋地域)
  7. Abuja MOU (1999)(中西部アフリカ地域)
  8. Black Sea MOU(2000)(黒海地域)
  9. Riyadh MOU (2004)(中東地域)

なお、米国はどのPSC地域組織にも参加していませんが、独自にPSCを行っています。

東京MOU

アジア太平洋地域では、1993年にPSCの地域協力に関する覚書が東京で採択されました。このため、アジア太平洋地域におけるPSCの地域協力に関する覚書は東京MOUとよばれています。日本の海事当局は東京MOUの準備段階から積極的に活動し、さらに、アジア太平洋地域のPSC地域組織を運営するため事務局も日本が担うことになりました。

現在、日本、オーストラリア、カナダ、チリ、中国、フィジー、香港、インドネシア、韓国、マレーシア、マーシャル諸島、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、シンガポール、タイ、バヌアツ及びヴェトナムの20か国・地域が東京MOUのメンバーになっています。

PSCの実際

PSCは、次のような手順で行われます。

1.入港船舶のデータチェック

東京MOUに基づきPSCに関するデータベースが整備されており、各国当局はPSCに関する過去のデータを共有化しています。これを活用し、危険性の高い船や過去にPSCを受けていない船を選定します。

2.選定した船への立入り

PSC職員(職歴や研修実績を踏まえ、各国当局が任命します。)が、選定した船に立ち入ります。この際、PSC職員であることを証明するIDカード(身分証明書)を乗組員に提示します。

3.書類チェック

国際条約に基づき所持を義務付けられている各種書類をチェックします。所持すべき書類がない場合には、処分を検討します。

4.船の状況チェック

船の中を巡回し、各種設備や船体の状況をチェックするとともに、乗組員に事故時の対応等について質問し、必要な場合、実際に機器の操作をさせます。設備等が国際基準を満足し、かつ、乗組員も的確な回答・操作をした場合、PSCを終了します。基準を満足しない場合や満足な回答がない場合には、処分を検討します。
通常、3及び4は2~3時間程度で行います。

5.処分の決定

基準を満足していない等の欠陥がある場合、軽重に応じ、処分を決めます。一番厳しい処分は、欠陥を改善するまで航行を停止する処分です。その他、次の港で改善、2週間以内に改善等の処分があります。処分決定の際は、船長等から事情を十分聴取し決めます。船長等が処分に納得しない場合には、不服審査の手続きを知らせます。

6.通報

PSCの結果をデータベースに入力し、各国で共有化します。航行停止処分をした場合には、船の船籍がある国等にその内容を通知します。

7.航行停止した場合の解除

改善するまで航行を停止する処分を下した場合、船では必要な修理等が行われます。修理等が終了した後、PSC職員が訪船し修理等の状況を確認し、適正に行われていれば、処分を解除します。PSC職員が多忙な場合等、船長や検査代行機関の報告書により、処分を解除する場合もあります。